2つの異なる世界の内側:MotoGPとEWC

2019.12.25レース


お互いチームマネージャーであるルーチョ・チェッキネロとマサ・フジイ(藤井正和)は、それぞれMotoGPとEWCという、異なる世界最高峰シリーズで大きな成功を収めている。それでは、お互いのチャンピオンシップについてどう思っているのだろうか?
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MotoGP(FIM Grand Prix World Championship)とEWC(FIM Endurance World CXhampionship – 世界耐久選手権)という対照的でまったく異なるカテゴリーとはいえ、ルーチョ・チェッキネロと藤井正和の仕事は同じもの、つまりモーターサイクルレーシングの世界でもトップレベルのチームを運営している。

このイタリア人と日本人はそれぞれのカテゴリーで大きな成功を収めており、チェッキネロはMotoGPで3回優勝し、藤井も鈴鹿8耐で3回優勝している。また、彼らはこの25年間以上にわたり友人として交流を続けている。チェッキネロがルーキーライダーとして登場し、藤井がノビー上田(上田昇)をチームで走らせていた1990年代に、当時の世界グランプリ(WGP)125ccクラスでホンダ陣営として競い合ったときに初めて知り合ってからのことだ。


チェッキネロは2003年に退くまでにWGP125ccクラスで通算7回優勝し、2004年からは自身のチームをマネジメントする立場へとその身を移した。彼のLCR Hondaチームは2006年からMotoGPの重要なメンバーであり、現在はカル・クラッチロー(LCR Honda CASTROL)と中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)のチームマネージャーを務めている。一方の藤井は、TSR(TECHNICAL SPORTS RACING)を運営し、1991年からWGP125cc、250cc、そして500ccクラスまで独自の路線で活動の幅を広げ、その後2016年からはEWCシリーズにパーマネントチームとして年間参戦してその場を移した。直近ではF.C.C TSR Honda Franceとして2017-2018年シーズンのEWC世界タイトルを獲得している。

彼らは2019年11月のHonda Racing Thanks Day 2019(ツインリンクもてぎで開催)に招聘され、モーターサイクルレースに注ぐ愛情と、お互いが日々行っている非常に異なる仕事について語り合った。

「バイクが大好きで、それ以上に勝つことが好きなんだ!」と藤井は言う。「MotoGPとEWC、このカテゴリーはどちらも大好きだけど、大きな違いがある。スプリントレース〜グランプリレース〜は非常に特別なもので、これまで多くのライダーで125cc、250cc、500ccクラスでレースをしてきた経験もある。一方の耐久レースは、人の生活、人生そのものに似ている。よーいドン!で始まって、長い時間戦い(走り)、そしてフィニッシュする! 同じチームで2人または3人のライダーと一緒にいて、メカニックがいて、サポートスタッフがいて、最大24時間もの間、常に助け合っている家族のような感覚になるんだ」

チェッキネロは元レーシングライダーとして、ライダーがコース上で何をしているかを熟知している。 「ライダーがMotoGPで競っているのを見ると、まるで自分がバイクに乗っているかのように、心臓が鼓動するのを感じることができるほど、本当に緊張しているんだ!」と語り、「各グランプリでこのストレスに45分の間、自分で向き合わねばならない。でもマサ(藤井)はこのストレスに8時間や24時間などという途方も無い時間、これに対処しなければならないんだ!」さらに、「MotoGPは年間20レースあって、レースで何らかの問題が発生した場合、2週間後には何かを再度トライすることができる。しかし、鈴鹿8耐やボルドール24時間などの耐久レースでは、何か問題が発生した場合、次のレースまで丸々1年かかってもう一度試すことになる。だから、チームマネージャーがすべてのことを完全に達成するためのストレスは、とても、とても高いものにならざるを得ないと思うよ」ともその違いを述べた。

チェッキネロの「LCR Honda」は、チーム全体のスタッフ数が47人で、27人がガレージまたはトラック(ライダー、エンジニア、メカニック)で、残りはチームホスピタリティやモナコの本部で管理スタッフからグラフィックデザイナーまでが働いている。片や藤井のチーム”F.C.C. TSR Honda France”のメンバーラインナップは24時間のレースではほぼ同数ということだが、短い8時間のイベントでは若干少なくなると言う。


藤井は、「レースで1台の同じマシンに乗る3人のライダーをうまくコントロールし、マネジメントして様々な事態に対応しなきゃいけない。特にピット作業における1秒の差は、ラップタイムでの1秒の差と同じくらい重要だから、ピットストップでの作業がとても重要な要素となる」と語った。さらに「耐久レースでは、ライダーのパフォーマンスがおそらく40%、チームとその作業があとの40%を占める。だから、チームがどうやって様々な連携をするかが非常に重要」と藤井は付け加えた。「そのために、TSRではバイクを3つの部分から構成できるように設計している。フロント、センター、リア。例えばライダーがクラッシュしてリアカウル部分を破損した場合、目標はリアカウル全体を3分で変更すること。逆にフロントエンドがひどく破損している場合、フロントエンド全体を4〜5分で修復することを目標にしている」

「また、レース中、多くの様々な違った条件や状況をチェックしコントロールする必要がある。たとえば、トラック温度。日中の40度から夜は5度まで下がることもある。そうした場合にサスペンションのセットを変更したり、ソフトウェアの再マップなんてやってられない。すべては想定する平均値に設定してマシンをセットアップしていく。そして私にとって最も重要な点はライダーの管理。ライダーを選ぶときは、体重と身長がほぼ同じで、腕と脚も長さが同じであることが必要だね。ライダーの背格好やサイズが大きく異なると、耐久レースは難しいね!」

チェッキネロはこれまで耐久レースをしたことはないものの、色々な面からそれに魅了されていることを認めている。

「ピットワークでは給油とブレーキパッドの交換などを非常に迅速に作業する必要があり、さらに作業の安全性の観点からもチームクルーを訓練することの重要性など、さまざまな側面があると思う。またMotoGPでは、バイクの純粋な速さ、最高のパフォーマンスを見出し、ライダーからのインフォメーションによってバイクを調整する。しかし耐久レースでは、2人または3人の異なるライダーに対処する必要があるため、ライダーたちのすべての情報を組み合わせて、どのセットアップがライダーたちにとって最適かを判断する必要がある。とても興味深いし、面白そうだね」

チェッキネロも藤井も、Honda Racing Thanks Day 2019でマシンを展示した。そしてカル・クラッチローはRC213Vで観客を驚かせ、マイク・ディ・メリオは藤井が永年にわたり手掛けてきたCBR1000RR Fireblade(SP2)を走らせ、多くのファンの前でパフォーマンスを披露した。

「このイベントに参加できてとても光栄。多くのファンがここに集まってくれたのは素晴らしいことだと思う」とチェッキネロ。「この機会に、2019年シーズンにファンから受けたすべての応援、すべてのサポートに感謝したい。来年10月の2020年日本GPに戻ってくることをとても楽しみにしています」

「LCR Honda」と「F.C.C. TSR Honda France」は、前シーズンと同じライダーで2020年シーズンを迎えることにしている。クラッチローと中上は、再びチェッキネロの重要なチームメンバーとしてRC213Vを駆りMotoGPを走る。オージーライダーのジョシュ・フックとフランス人ライダーのディ・メリオ、そしてフレディ・フォレイは、ホンダが満を持して送り込んだ驚くべき新型CBR1000RR-Rに乗り、タイトル奪還を目指すチームのために藤井と共に戦うのだ。

Interview and Text
Honda Racing Thanks Day story
Mat Oxley(c)

※この記事は、2019年11月に行われた「Honda Racing Thanks Day 2019」において、異なるチャンピオンシップで働く2人のトップチームマネージャー「ルーチョ・チェッキネロ」と「藤井正和」とのインタビューを、イギリス人モーターサイクルジャーナリスト、マット・オックスレイ氏がまとめた文章をTSR/TECHNICAL SPORTS RACINGで翻訳したものです。日本語版の文責はTSR/TECHNICAL SPORTS RACINGにあります。
なお、この記事は著作権フリーの記事です。お気軽に共有していただけます。

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